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宇宙線を使った巨大構造物非破壊検査技術
「宇宙線ラジオグラフィー」

これまで不可能だった数メートル~数百メートル規模の対象物を検査可能な唯一の技術

宇宙線とは

宇宙から降り注ぐ放射線「宇宙線」

 地球には宇宙から放射線(微小な粒子や電磁波等)が絶え間なく降り注いでおり、この放射線は「宇宙線」と呼ばれています。宇宙線には様々な種類の粒子があり、例えば陽子(+の電荷を持ってます)や電子(-の電荷を持っています)などが宇宙から降り注いでいます。

 地球に降り注いだ宇宙線は地球の大気(大気を構成する窒素や酸素の原子核)と衝突し、様々な種類の粒子を生み出します。例えば陽子や中性子を生み出したり、π粒子(パイ粒子、パオイン)やμ粒子(ミュー粒子、ミューオン)といった粒子を生み出します。こうして生み出された粒子も宇宙線と呼ばれます。

四方八方から降り注ぐ宇宙線

宇宙線は四方八方から常に降り注いでいます。(目には見えません)

地上ではほとんどがμ粒子

 これらの粒子の種類のうちの多くは大気を通り抜けることができずに止まってしまったり、地上に届く前に寿命が尽きて崩壊してしまいますが、μ粒子は透過力が高い上に(※1)寿命が長い(※2)ため、地上まで到達します。このため地上付近に降り注ぐ宇宙線のほとんどはμ粒子です。

 (※1) μ粒子は「レプトン(lepton)」という種類の素粒子であり、レプトンは「強い相互作用」と呼ばれる相互作用(典型例としては原子核同士に働く相互作用)が働かないため、大気中の原子とはほとんど衝突を起こさず透過していきます。
 (※2) 寿命が長いといっても100万分の2.2秒(2.2マイクロ秒)という極めて短い時間ですが、秒速30万キロメートルという高速で飛行するため地上に到達することができます。また、非常に高速(光の速さと同等)で降り注ぐため、特殊相対性理論の効果(ウラシマ効果)によって時間の進み方が遅くなり、寿命が延びます。

宇宙線の量は 1㎠に1分に1個ほど

 地上付近では、1平方センチメートルに1分に1個程度の頻度でμ粒子が常に降り注いでいます(手のひらに1秒間に1個~2個の宇宙線が降り注ぐ程度)。この宇宙線を利用して対象物を透視する技術が「宇宙線ラジオグラフィー」です。

宇宙線ラジオグラフィーの原理

μ粒子の透過の程度を測定する

 μ粒子は透過力が高く物質をスルスルとすり抜けますが、物質を通過する際には電離によってエネルギーを失うため、物質の厚さによって透過しやすさが異なります。つまり、薄い部分(物質があまり多くない部分)は宇宙線が透過しやすく、厚い部分(物質が多い部分)は宇宙線が透過しにくいという性質があります。このため、検査対象物を透過してきて宇宙線の量を測定することによって、検査対象物の中を透視した像を得ることができます。

 この原理は、レントゲン撮影によって人体の中を透視できることと同一です。すなわち、レントゲン撮影では人体を透過してきたX線によって撮像するのですが、骨などがある部分はX線が透過し難いため、骨の部分だけ影がある像が得られます。これと同一の原理です。

宇宙線を使った巨大構造物非破壊検査

宇宙線ラジオグラフィの原理。検査対象物を透過してきた宇宙線(ほとんどがμ粒子)を検出し、到来方向と宇宙線の数を測定する。物質が多い方向からは宇宙線の数が少なくなり、物質が少ない方向からは多くの宇宙線が到来する。このため、透過してきた宇宙線の数を測定することによって、物質量を反映した像(透視像)が得られる。例えば、この図のようにピラミッドの中に「隠し部屋」が存在するならば、ピラミッドの中に検出器を設置してピラミッドを透過してきた宇宙線を測定すれば、隠し部屋の方向からは宇宙線の数が多くなる。

宇宙線を使った巨大構造物非破壊検査

レントゲン撮影の原理。骨の部分はX線が透過しにくいため、透過してくるX線には濃淡がある。したがって、透過してきたX線を撮像する(透過していきたX線をX線フィルムで受ける)ことによって、手の中を透視した像が得られる。

原子核乾板を用いた宇宙線ラジオグラフィー

軽量・コンパクト・電力不要の検出器「原子核乾板」

 μ粒子を検出することができる検出器には様々なものがありますが、当社では「原子核乾板」を使用しています。原子核乾板はμ粒子などの放射線に感度がある特殊な写真フィルムです。軽量、コンパクトで電力不要、雨風に晒される屋外にも設置可能であり、使い勝手がよく様々な対象物を簡便に検査可能です。

原子核乾板 ラミネートパックされた状態

原子核乾板(ラミネートパックした状態)。軽量、コンパクト、電力不要のため、様々な場所に設置が可能です。
両面テープで壁面に貼り付ける、鉄板で挟み込んで現場の配管に鉄板ごとネジ止めするなど、様々な方法で設置可能です。
ラミネートパックされているため雨風に晒される屋外にも設置可能です。

 通常は原子核乾板を設置してから2週間 ~ 4週間そのまま放置しておきます。(その間の作業員の配置等は不要です)。その後、ラボに持ち帰って現像し、宇宙線の飛跡を読み出します。

原子核乾板を用いた宇宙線ラジオグラフィーの技術提供・測定サービス

宇宙線ラジオグラフィーの技術を世の中により広く提供するために

 原子核乾板を用いた宇宙線ラジオグラフィーは、軽量コンパクトで汎用性に優れ、様々な対象物への適用が期待される技術です。しかしながら、これまでは大学の研究者のみが取り扱える特殊な技術であって、民間企業が使用するには大学との共同研究が必要であり、敷居が高い状況でした。

 当社はこの技術をより広めるために、大学との共同研究を必要としない「測定サービス」「技術提供サービス」として宇宙線ラジオグラフィーを提供しています。

 対象物に対して原子核乾板をどの位置にどの角度でどのような方法で設置するかの検討から、設置期間の見積(宇宙線のモンテカルロシミュレーション)、設置作業、原子核乾板の現像、結果データの提供まで、ワンストップで提供します。

[サービス提供の流れ]

 実施した後、特定の対象に対して更に測定精度を向上させたい等の研究課題が生まれた場合には、当社または名古屋大学との共同研究として研究テーマを継続・発展させることも可能です。(名古屋大学との共同研究とする場合は、当社から名古屋大学に引継ぎいたします。)

 原子核乾板を用いた宇宙線ラジオグラフィーを使用してみたい民間企業、省庁、地方自治体等はお気軽にお問い合わせください。

[測定対象例]

土木分野(橋梁、堤防、岩盤など)、製鉄分野(溶鉱炉の内部検査、耐火壁残厚調査など)、その他の大規模インフラの検査・メンテナンス、地質学分野(地層密度、火山)、考古学分野(古墳、遺跡、石像、木像など)等。数メートル~数百メートル規模の大規模構造物の検査に適しています。

技術的特徴・使いやすさ

お問い合わせ・測定相談

競争資金採択実績

科学技術振興機構(JST)「最先端研究基盤領域」先端計測分析技術・先端機器開プログラム 採択(2016年)
開発課題名「原子核乾板を用いた高精度宇宙線ラジオグラフィシステムの開発」
 名古屋大学・(株)川崎地質・富士フイルム(株)・(株)サイエンスインパクト

 2017年度 科学技術振興機構(JST)による中間評価:S評価 評価結果(科学技術振興機構Webサイト)
 2021年度 科学技術振興機構(JST)による事後評価:S評価 評価結果(科学技術振興機構Webサイト)

技術実績

原子核乾板を用いた宇宙線ラジオグラフィーには以下の他にも様々な実績があります。

  • エジプト・クフのピラミッドに巨大空間を発見 2016年 名古屋大学他研究グループ
  • 北薩横断道路 北薩トンネル(鹿児島県) 上部地盤調査 2017年 物理探査学会優秀発表賞 川崎地質(株)、当社他研究グループ
  • 神戸製鋼加古川製鉄所 溶鉱炉内部調査、耐火壁の残厚測定(世界初 残厚を精度数十cmで測定) 2016年~2018年 当社、(株)神戸製鋼所、名古屋大学研究グループ
  • 道東自動車道 穂別トンネル(北海道) 上部地盤調査 2023年 川崎地質(株)、当社他研究グループ
  • 万治の石仏(長野県下諏訪町) 内部調査 2025年 下諏訪町観光協会、当社